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Interview

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せわしい日常の中で想像力を育む場にこれからのお寺の役割り【後編】

浄土真宗本願寺派極楽寺 当院
麻田弘潤さん

お寺の境内を使って開催されるユニークなイベント『極楽パンチ』に関してお聞きした前回に続き、麻田さんの多岐にわたる活動についてさらにお聞きしました。
麻田さんを様々な活動に突き動かす原動力とは?

世界初!!
“消しゴムはんこ×仏教”コラボ
『諸行無常ズ』の活動もスタート

消しゴムはんこの活動を始めたきっかけは?


「消しゴムはんこは、『極楽パンチ』を始めて2年目に、無地のバッグに消しゴムはんこを捺して、オリジナルのエコバッグを作るスタッフブースを作ろうっていう話になって、僕が消しゴムはんこ担当になって作り始めたんです。


そんな単純なノリで始めて、もうかれこれ9年ぐらいになりますかね。」


消しゴムはんこアーティストの第一人者である津久井智子さんと組んで、消しゴムはんこと仏教のコラボとも言える『諸行無常ズ』を立ち上げることになったのはどういう経緯なんですか?

↑麻田さんと津久井さんの共著『消しゴム仏はんこ。』の極楽寺での撮影風景。

「東日本の震災があって僕もボランティアで被災地にずっと行ってたんですよ。


2012年の1月に仮設住宅の集会所で、他のボランティアの人が物資を配っている横で、消しゴムはんこのオーダメイドをやっていたんですけど、その時に作り方を教えて欲しいと言われて、改めて来ますっていう約束だけして、そのままになっていて。


津久井さんもボランティアで被災地で活動されていて。


ある日、津久井さんが宮城県の気仙沼でボランティアのワークショップを開催していて、その時に使う消しゴムとかの材料提供をツイッターで呼びかけてるのをたまたま見たんですね。


ちょうどいくつか仕入れていたので、ツイッターでやりとりして送ったんですよ。


それが初めてのコンタクトで。


後日、ツイッターで被災地でのワークショップをまた開催したいという旨の書き込みがあって。


僕がお願いされていた話を津久井さんに振ってみたら快く引き受けてくれて。


2012年7月に宮城県の亘理町で初めてお会いして、消しゴムはんこのワークショップを開催して。


お返しにというわけではないのですが、その後、津久井さんが東北で開催したボランティアのワークショップのお手伝いをさせていただいて。


そんなことを繰り返しているうちに意気投合して。それが『諸行無常ズ』の結成のきっかけですね」

消しゴムはんこは
素敵なコミュニケーションツール

「僕らお坊さんって、人の悩みを聞かなきゃいけないって変な自負の念があって。


悩みを聞き出そうって圧力みたいなのがわーって出ちゃうんですけど。


たまたま、被災地にお伺いして消しゴムはんこをやっている時の体験なんですけど。


はんこを彫っているうちに、津波で巻かれて間一髪逃げ切った話を突然し始めた人がいて。


そんな大変な体験をしてたんだって驚いて。周りで聞いていた人も初めて聞いたことだったらしく、びっくりしていて。


その方は“みんなお互い様だからわざわざ言うことじゃないと思って”と切々と話をされて。


これを多分、お坊さんとして“何かお悩みありますか”って聞いて回ってたら、“いや、特に何も無いです”ってなっちゃってたと思うんですよ。


はんこを彫りながら、力を抜いた何気ない話を続けていくうちに、心の奥底にしまっていたことがポロッとこぼれ出すような深いコミュニケーションが取れるってことに、とても感銘を受けて。


なんかこれ、コミュニケーションの道具じゃんって思って。」

↑2016年3月に出版される「消しゴム仏はんこ。」の作品群(デザイン/津久井智子氏)。

↑消しゴムはんこを製作中の麻田さん。真剣そのもの。

↑2015年11月に行われた『諸常無常ズ』山口・島根ツアーの様子

「消しゴムはんこの活動を坊主としてやったら面白いんじゃないかと思って。


坊主はコミュニケーションをとってナンボの職業だと思っているので。


津久井さんと知り合い、彼女のワークショップを見て、クオリティが素晴らしく、すごい面白くて。


例えば、はんこで仏様を掘って、それにまつわる話をするとして、彼女のようなクオリティの高いものが作れて見せることができたら、説得力のある、より良いコミュニケーションができるんじゃないかなと思って。


早速、津久井さんに相談して。


最初は、あまり乗り気ではなかったようなのですが。


『諸行無常ズ』ってユニット名も一発屋みたいで嫌とか言われながら。


なんとか無理くりやりだしたのが始まりで。


東京の神谷町の光明寺さんってお寺でイベントも開催して。


そうしたら意外とウケて。どんどん依頼が来るようになって。


2016年の3月に、『諸行無常ズ』として本が出版されるんですが、担当してくださった編集者の前田亜希さんは、大学時代の同級生なんですけど。


たまたま一回目のイベントに来てくれて。興味を持ってくれて。


そんな偶然にも恵まれています。」

お坊さんという立場を
最大限に活用して
様々な活動に取り組む

ポップな活動だけでなく、実は、社会的な活動もされてるじゃないですか?

東電・柏崎刈羽原発差止め 原告団 市民の会』共同代表も務めていらっしゃいますよね。

こちらも麻田さんが取り組まれている活動の一環という感じなのでしょうか?


「一応、エコをテーマにして、素人感覚で『極楽パンチ』というイベントを始めて、完璧を求めるよりも、1年1年少しづつ良くしていこうぐらいの感じでやってきて。


そこから環境問題に関心が深まって、考えが原発まで及ぶようになって、原発まで及ぶようになったら、それに関わる人に意識がいって。


何で原発が問題なのかと言ったら、そこで苦しんでいる人達がいるからで。


人が相手であるなら消しゴムはんこでその方達とコミュニケーションを取れるしと。


『極楽パンチ』に来る人も消しゴムはんこをやってる人も僕の原発の話を聞いてくれるし。


避難している方々も消しゴムはんこを楽しんでくれるし、イベントにも来てくれるしで。


これはこれ、あれはあれって感じじゃないようにしていて。


全部つながっているというか、やっていることを出来るだけ無駄にしないようにしています。」


それは、お坊さんの立場だからこそ出来るっていうこともあるんですかね?


「そうですね、関心が薄れているとはいえ、こういう衣を着させていただいて、場をセッティングすれば、まだまだ耳を傾けてもらえる。


イベントもただ遊びで楽しくやってるだけじゃなくて、それなりの筋があってやってんだって言えるような風にはしたいなと思ってて。


崩し切ってもダメだと思うし、どっかで揺ぎ無い感じでやりたいなと。」

これまでの活動で得てきたことを
日常に落とし込んでいきたい

既に様々な活動に取り組んでいらっしゃるわけですが、今後はどのように展開をお考えですか?


「来年の5月、住職になるんですよ。


今まで父母がお寺作りのベースを担っていました。僕は対外的なイベント担当みたいな感じで。


これからは、今まで自分の感覚も取り入れていきたいな思って。


例えば、入り口に”車通り抜け禁止”の看板があるんですけど、それを“歩行者の方、お通りください”みたいに変えるだけで全然違うじゃないですか。


ベンチと机置いて、日傘でも立てて。お茶でも置いてみたり。


玄関の入り口を土間式に変えて靴を脱ぐ手間が省けるとか、正座をしなくていいとかしてみたり。


そういう発想は、多分10年前には出なかったと思うので。


『極楽パンチ』のイベントを通して感じたことを、日常的なものに落とし込んでいきたいなと思っています。


イベントを成功させて、1千人、2千人来たとしても、それで満足してたらダメで。


翌日の閑散とした風景の方がむしろ日常なんで。


『極楽パンチ』になるとスタッフ総勢20数名に関わってもうら大掛かりなもので、それができるのは年に1回が限度だと思っていて。


昨日の『極楽音楽堂』のライブイベントは、出来るだけ日常的にやるという訓練というか、1人で全部やってたんですよ。小さな商店の店主みたいに。


手を抜くわけじゃなく、どんな具合で出来るか、一種の実験みたいな感じで。うまいこと疲労も残らず、人はいっぱい来てくれたし。


もう一工夫すれば、そこに僕自身の考え方とか、社会問題の部分もリンクさせられるんじゃないかなと考えています。


この日は、音楽ライブがあって、次の日は原発のことについて考える会があって、その次の日は仏教の話を聞く会とか。そういう感じで様々な取り組みを日常化させていきたいなと思って。


結局、住職になる前は、そういう準備をする期間だったのかなと。今までの積み重ねがなかったら、『極楽音楽堂』みたいなゆるさ加減は出せなかったと思うので、就任した時にやりたい事をうまく形に出来るような状態にさせてもらえたのかなと思います。」

想像力を働かせることで
広がる
これからの理想の暮らし

これからの取り組みをお聞きした上で、麻田さんが思う“これからの豊かな暮らし”ってどんなイメージですか?


「暮らしの中で、想像力を働かせることですかね。


お葬式の席でよく話すのですが。亡くなった人がどうなるか。


ゼロになる、無になる、いなくなってしまうってのが一般的な考え方ですけど、仏教ではそうじゃない。


それって見えないものについての言及なので、想像力を働かせないと見えてこないじゃないですか。


でも、見えるもの以外は見れない人が多いっていうか、想像を膨らませられない人がすごく多くて。


目に見えるものは、すがりやすいのだけれども。


派手さだったり、耳障りのいいキャッチフレーズとかに目を奪われて、見落としてしまってることがあると思う。


もっと想像力を膨らませれば本質的な豊かさに近づくことができるのかなって。


『極楽パンチ』で、舞台を装飾するキャンドルを作っているんですね。


下準備に僕らも加わって。お寺の古いロウソクをリメイクする感じで、まず3千本近くのロウソクを削って汚れを取るところから始まって。


それだけでも、ものすごい日数がかかって。


それを溶かして1本1本芯を取り除いて。濾過して汚れを完全に取り除いて。


こっちの寒冷地のロウソクって柔らかくて強度がないので、硬いパラフィンワックスを混ぜて、やっとライブの舞台で使えるキャンドルが出来上がるんです。


そうやって作ったキャンドルを100本以上並べるとすごく綺麗なんです。


やってよかったなぁってうっとりしちゃうんですね。」

「でも電気をつけちゃうと、あっという間にキャンドルの灯りよりも、パーっと明るくなっちゃっうんです。


今までの苦労はなんだったの?ってくらい。


じゃあここで想像を膨らませてみようと。


このスイッチの向こうに何があるんだろう?


ただスイッチを見てるだけだと薄っぺらい発想しか出てこないというか。


じゃあ“その奥に何があるんだろう?“、”どういう人が関わっているんだろう?”って想像を膨らませていくことで様々な存在に気づくというか。


それが僕の場合は原発だったんですけど。


人間一人とっても、深く想像すればするほど自分一人の考えで世界があるんじゃない、自分が自分だけで存在しているんじゃないっていう感覚になっていくというか。


そこに豊かさを感じるような気がするんですよね。


でも、葬式でそういう話をしても、“無いものは無い”、“死んでしまったら終り”だとかいう話になる人達が多くて。


今まで、社会がこういう基準で作られてきたんだと思うと、ちょっと怖いんですよ。


“見ないようにすればいい”ってなっちゃうから。気づかなかったらもうお終いで。


もっと想像力を働かせることが、これからの豊かさとリンクするんじゃないのかなって最近思ってて。


豊かなものづくりとか社会がデザイン出来るんじゃないかなと。


お坊さんってそういうのを膨らませるお手伝いをする役割もあるんじゃないかなと思ってるんですよ。


普段、忙しい中生活してて、なかなか作れない時間が作れて、みんなの想像力を育む場所にお寺がなっていけばいいなと思います。


そういうゆったりリラックスして人の話をじっくり聴ける空間とかありますよね。


寺は、普段と違う空間なんで、やり方次第で、リラックスできるスペースにも、1つの事を真剣に考える場にも作りこむことができると思っています。


そのためにこの空間をどう扱うか。


相手に安心感を与えるというか、心開いてもらうみたいな。


今の所そういうところはうまくいってる感じですし。


ここら辺なんて過疎化も始まってるし、山の方に行けば限界集落なんてのもあったりするし。


元々、このご近所だって数十人住んでいたのが、今は数人になってるところもあります。


人が減って、お寺の運営も厳しくなって、出来ることが減ってきて、ますます人の心がお寺から離れていって。


息子さんはいるけど継がせられない状況のお寺もある。


今、お寺の数は、実はコンビニより多い。何百年も、それだけ必要とされてきた歴史があるのに。


何かやれば人が来るようになったし、いろいろ注目されるようにはなってきたけど、多分、僕の世代では結果が出ないだろうと思ってて。


何十年、何百年かかって。結構めっちゃ長期計画っていうか。


まあ次に誰が継ぐかわからないですけど、その時には人が集まりやすいというか、ここに来れば何かあるぐらいのベースを作っておきたいと思っています。」

古いしきたりにとらわれずに、これらかの時代にマッチした形へ、お寺の現状を大胆に変革している麻田さん。

核家族化、地域コミュニティの衰退など、人のつながりが希薄になっている昨今。

現代のライフスタイルに寄り添う形で、ご近所さんが楽しく集う場の役割をお寺が担うなんて、正にMeLikeな素敵な取り組み!

なんと言っても、お寺の数は、コンビニ以上あるんですからね~。

長い歴史の中で建てられたお寺の場所にはパワースポット的な意味合いもきっとあるんじゃないかなと思うし。

麻田さんのような活動がもっと広がっていったらいいですね!

麻田さんの今後の活動、新潟県小千谷市、極楽寺から発信される情報から目が離せません!


 


 

Profile

浄土真宗本願寺派極楽寺 当院

麻田弘潤さん

浄土真宗本願寺派極楽寺 当院

麻田弘潤さん

1976年7月18日、新潟県生まれ。本願寺派布教使・特別法務員・一般財団法人同和教育振興会一般研究員。

2006年、中越地震で被災したことをきっかけに、エコをテーマとした復興イベント『極楽パンチ』をスタートし、循環型社会への移行に向けたメッセージを発しつづけている。

東日本大震災以降は原発問題に関心を寄せ、2012年4月『東電・柏崎刈羽原発差止め-原告団/市民の会』共同代表に就任。

消しゴムはんこ職人としてイベント等で消しゴムはんこワークショップも開催中。消ゴムはんこの趣味を生かし、消しゴムはんこ作家津久井智子と仏教×消しゴムはんこ法話ユニット『諸行無常ズ』を結成し、消しゴムはんこづくりを楽しんでもらいながら体験的に仏教思想を学ぶことの出来るワークショップを全国各地で開催している。