Quest for quality life through traveling around the world.

Interview

18

世の中は既に明るい!外部の目線で地域を発信するライターインレジデンスへの道筋

食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター
磯木淳寛さん

Webメディア『greenz.jp』、や雑誌『BE-PAL』(小学館)、『ソトコト』(木楽舎)などで食、環境、自然などをテーマに社会派の文章を執筆され、ソーシャル系のイベントなどでもご活躍されている磯木さん。
千葉のいすみ市の一軒家に移住し、ライター志望、移住志望の人達に向けてのワークショップ『ライターインレジデンス』なるユニークな取り組みも展開されています。
実は、私、編集ひとりも第一回目の『ライターインレジデンス』に応募!しかし、参加者多数で落選(笑)。
後日のスピンアウトイベントに参加させていただいたのが最初の磯木さん宅訪問で、今回、二度目とあいなりました。
さぞかし硬派な文学青年もしくは、高い社会意識からライター業を目指されたのかと思いきや、その経緯は意外や意外!
磯木さんは、どのように、今の働き方、暮らし方に至ったのか。
千葉県いすみ市の広大な敷地のご自宅のお庭にて、心地よい昼下がりの日差しを浴びながらお話お聞きしてまりました。

志望者に希望を与える
磯木さん的ライターになる方法

「地元北海道から東京に出てきたのも音楽をやりたくて。


高校を出て音楽の専門学校に行って、バンドマン生活を続けて20代を過ごしました。


結婚を機に就職した会社を32歳のときに退職してから、環境系の仕事に就きたいと思って探していたんですけど、理系人材の求人が多くて、音楽専門学校出の未経験の僕が応募できるようなものなんてまったくなかったんですよね。


でもなにか仕事はしないといけない。


そこでつなぎの仕事としてアルバイト的になにかしなきゃと考えた時に思いついたのがライターという仕事でした。


だからライターというものに理想を描いていたわけでも全然なく。


ただ、ライターだったら例えば居酒屋のアルバイトみたいに年下の元気な大学生などから指示されて小さなプライドを傷つけられることもなく自宅で一人でできるんじゃないかなというくらいの気持ちでした。」




↑磯木さんのバンド時代の貴重な映像。

「今は、20代とかのライター志望の人達に僕の話をすると、“いける気がしてきました”って言ってもらえたりすることもありますね。30歳を過ぎてからでもなれるなら自分にも全然大丈夫だって。


大人になってから野球のイチローみたいな小学生の時からスターだった人の成功物語を聞くと、もう無理かもしれないと自信を無くしてしまうかもしれないけれど、何者でもなかった人の話のほうが、希望を感じるのかもしれないですね。こいつがなれるなら自分がなれないはずがないって(笑)。


なので、当たり前ですけどスタートした時点でライター業の経験やスキルがあったわけでもなく。


子どもの頃から国語は好きでしたけどそれくらいです。


そんな状況で、“よし、ライターだ!”って、ネットで求人を探して1文字1円みたいな仕事をしたりするんですけどやっぱりまるでお金にはならないんですよ。


良くても月に6、7万円。ライティングに関してはこの頃の学びが今に役立っていることもありますけど。


そんな時に、オーガニック食材の宅配会社であるオイシックスのライター募集があったんです。


もともと志望していた環境系の仕事にも親和性がありそうだし、もうこれしかないと思って応募して、何度かのライティングテストを経て就職しました。


オイシックスではWebの商品販売ページ、会員のための紙や広告、メールマガジンといったものをとにかく書きまくる毎日で随分鍛えられましたね。」

一緒にバンドをやりたかった
ドラマーに断られ!
人生最大のピンチが転機!

「大きな転機が、2010年の10月。


仕事のかたわらでバンドも続けていたんですけど、その頃、一緒にやりたかったドラマーから事情があって断られちゃって。


振られちゃったんですよね。もう、どうしよう…って思って。」


仕事が見つからなかった時の話より全然深刻な表情ですけど!

よっぽどつらかったんですね!! 磯木さんは楽器は何を担当されていたんですか?


「僕ベースです。


中学生の時から楽器をはじめて、東京に出てきてからも10何年もずっとバンドだけやってきたので、あの時は音楽から離れて虚無感で一杯でしたね。


土日とかすごく暇になってしまって過ごし方もわからない。


で、ちょうどその頃たまたま家のCDデッキが壊れて、何年か前にJ-WAVEで放送していたUAの番組を録音していたMDを聴いていたんですが、そこで話されていたパーマカルチャーのことが、面白そう!とピンときて。


調べたところ神奈川県の藤野(現相模原市)でパーマカルチャー塾が開催されていることを知って、通うことにしました。」

「パーマカルチャーは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた造語で、持続可能な農業を基本とて人と自然が共存しながら地球に負担をかけない循環型社会を目指す生き方のことです。


オイシックスでの仕事や取材を通じて、農家さんたちから大きな影響を受けまして。


農家さんは食べ物を作るだけじゃなくて、暮らしのことや、環境のこと、生きることに全てについて深く考えられていて。


今まで知らなかった、生きていく上で本当に大切な話をたくさん教えていただきました。


環境が良くならないと、いい土が出来ないし、食べ物も良くならない。結局、全体がつながっていることがわかってきて。


そういった生きるための智恵を体得してるのって、いいなって憧れてくるわけですよ。


パーマカルチャーも正にそこにつながっていたので興味をひかれて。


自然の恵みである食べ物やエネルギー、水などがどこからきてどこへ行くのかとか。自分達の毎日の生活がそれらにどのように関わっているのかとか。


環境汚染や自然破壊ではない方向への社会を築いていくには?それを実現していくための個々の日々の生活、地域、社会をどうデザインしていけばいいかみたいなことを塾ではやっていました。」


いつ頃から通い始めたんですか?


「ちょうど、2011年3月12日、震災の翌日から通い始めたんですよ。

震災の日、翌日がパーマカルチャー塾の第1回目ですごく楽しみだったので絶対に行きたいと必死で帰宅して。でも行ってみたら、本当は20人くらい来るはずが、僕とあと2人くらいだけ。みんな来ないのか!と(笑)。」


むしろ、あの時に開講されたことがすごい!


「うーん、確かに!」


パーマカルチャー塾では何か感じるものはありましたか?


「パーマカルチャー塾に通い始めて間もなく、自分自身、何か学んだことを活かして行動したいって思うようになりました。


“塾に行きました、はい終わり”とはしたくなかったんですね。


ある農家さんに取材に行った時に、別の農家さんが見学に来ていたんですけど、取材で僕がする質問よりも、見学に来たその方の質問のほうが深いんですよ。


当然、その方は農業やっているんで、いろいろ出てくるんです。僕にとっても使える話が。


僕はオイシックスでプロのライターとして仕事しているのに、全然ダメだと思って。


実際、自分で農作物を作っている人に見せつけられたんですよね。


サーフィンしてないと、サーフィンしてる人に質問できないじゃないですか。


そういうことだなと思って。


僕も家でプランターでジャガイモとか作っていたんですけど、そのことがあってからもっと作りたいなと思ったし、仕事的にも自分で、もっと農家さんに近いところに自分の身を置いて体験しないと食のライターとしても頭打ちだなと。


都内に住んでいて、農業の話を聞いても全然ダメ。勝てないんですよね。やっぱり。


パーマカルチャーセンターでの学びもあって思考もより柔軟になって。


自分自身が農業をするわけでなくても、移住してそういう暮らしをするっていう選択肢もあるなって気づいて。」

千葉いすみ市のブラウンズフィールドへ
改めて考えさせられた“お金”の意義

「千葉のいすみ市のブラウンズフィールドという、写真家エバレット・ブラウンさんと料理研究家中島デコさんの夫婦が、ご自身も住まわれながら、農園、カフェ、宿泊コテージを営まれているところにたまたま遊びに行くことがありまして。


1泊していろいろと話をしていたら、ご縁で働かせていただくことになりました。


もともとやりたかった田んぼや畑、丸の内朝大学などのイベント受け入れなどいろいろやりましたが、おもに経営マネージメントに力を入れていました。


“ウーフ”という、2週間以上の滞在で、ご飯と宿を無償で提供する代わりに農作業をしてもらうというのをやっていて、良い面ももちろんたくさんあったのですが、そのまま継続するのはなかなか難しい状況があり、1週間体験として3万円の参加費を頂く形に変更したんですよね。


そうしたら、受け入れ側の負担も減り、受け入れられる人数の総数も増えて、また、お金を介することによって、来る人のやる気と、受け入れ側の対応も変わってきた。


お金のデザインってすごく面白いって思いましたね。


人の気持ちが気持ちよく動くようにお金の設定をすればいいだけの話で、単純にツールとして利用すればいいんですよね。」


 

いすみ市の一軒家へ移住
ライターインレジデンスをスタート

「ブラウンズフィールドではそんなふうにして運営や、公式ホームページのリニューアルなんかもやりながら、同時にフリーランスとしてライターの仕事もしていました。


1週間体験では人がたくさん来てくれるようになったものの、多くの人はブラウンズフィールドだけを知って帰ってしまうんですよ。


いすみ市を知らないで帰ってしまう。


これはもったいないなと思って。ここだけでなく、もっといすみ市の魅力も知ってもらえたらと思って。


いすみにはすごくがんばっている移住促進のNPOもあるので、ブラウンズフィールドを入り口にして一緒にいすみ体験をくっつけて何かやれたらって話をNPOの方としたんです。


結局、実現には至らなかったんですけど、そうしたご縁もつながって1軒家を借りることになりました」


それがこのお家ですか?


「そうです。」

↑広大なお庭。お隣がどこか見えません!

↑ライターインレジデンス募集の要項。

↑ライターレジデンスの様子。

「それが2014年の10月。同じタイミングでブラウンズフィールドも離れて越してきました。


で一軒家があるんだったら発想をフラットにしてもっといろんなことが考えられるんじゃないかなと思って。


さて何ができるかなと考えた時に、以前インターネットで読んだ、ライターインレジデンスを思いついた。


内容は自分なりに考えて、文章を書く事や地方で暮らす事に関心がある人を対象にした3泊4日のワークショップで取材と執筆講座つき。寝床つき。


希望者は実際に取材を行ったうえでWebマガジンに原稿を掲載するという内容で。


泊まれる部屋の都合上、定員は4名。


1回目は募集して2日で9人の応募が来たので、びっくりしてすぐにそこで締め切って、9人の中から4人を選びました。

2回目からは、ある程度募集期間を設けて、応募者全員から選ばせて頂く形にしています。」


参加者はどんな人達なんですか?

_MG_4049


「若い人が多いですね。でも平均すると30代前半です。


40代の方もいらっしゃいますけど。


職種は薬学生や協力隊員や会社員などバラバラ。


2回目は、東北や京都、関西からの応募も多かったので、3回目はどこか違うところでもできたら面白いなと思って、古民家のwebサイト『COMINCA TIMES』を運営している友人に相談したところ、いろいろ声かけしてくれたんですけど、最終的には彼の実家の古民家を使わせてくれることになって、京都で開催しました。」


参加費0円ていうのは、どういうスキームなんですか?


「よく仕組みを聞かれるんですよね。


結局それってお金のことを言ってるのかなと思うんですけど、最初始める時に、これはいくらにするのがいいんだろうってすごく悩んだ末、自分に決められないからドネーションにして、参加してくれた人に決めてもらおうって。


ライターインレジデンスって間というか、余裕があるからこそ出来るんですよね。

4日間、自分の体を空けてやるっていう。


本気でやってますけど、遊びの延長という思いもあります。」

名称未設定 1


「気持ちの上では数万円出して、旅行に4日間遊びにいくくらいの感覚かもしれないですけど、実際やってみると個性的な参加者たちとの出会いもうれしいし、小旅行するよりもきっとかなり楽しいです。


ドネーションもそんなに悪すぎることもなくて、だからこそ継続できているんですけど。それに、ドネーションで頂いたお金にはやっぱり気持ちを感じますし、それもまた楽しいです。


回を重ねるごとに内容はブラッシュアップしていて、より良いものに。

外部の視点で地域の価値を見つけてもらうというところにも、やってみて改めて可能性を感じています。


これからもっと面白くしたいので、いろいろと考えていますけどね。」


それこそ行政と組むとか?


「そんな助言を頂いたこともあったのですが、ライターという仕事柄いろいろな地方の取り組みを見てきて、補助金頼みの活動が必ずしも運営に対して良い面ばかりでないことも知っていましたし、今のところまずは自由にやることで可能性を広げようと思ってやっていますね。」


やりたいことを自然体で実現されている感じなんですね。

サラリーマンやってた時より今の方が楽ですか?


「楽なのは間違いないですね。


今フリー3年目ですけど、ありがたいことに、関わってくださる方々が食や地域、ライターインレジデンスといった僕の特性をわかってくれて活かしてくれる仕事をくださっているので、結果的に、より自分らしい仕事ができるようになってきたように思いますし、そうなると当然楽しいですよね。


あと、支出は東京にいる時より減りましたよね。


全然お金使わないですから。


そのせいで財布無くしましたけどね(笑)。」


 

世の中、既に明るい!

磯木さんの書かれる文章のテーマは社会派なものが多いですけれど、とてもわかりやすいし、柔らかいというか親しみやすい内容ですねよ。


「僕が自分でわかるように書くってこともあるでしょうね。


今、サスティナブルライフとか田舎暮らしとかオーガニックとか、そういった価値観がよしとされるようになってきていますけど、こういう風にしなければ!とか、変えなければいけない!とか、頭で決めつけて窮屈にしてしまわなければいいなと思います。


多数の価値観が一方に偏ることが不安。本当かなって思ってしまいますし。


文章を書く仕事をする上でも、自分自身が頭でっかちになってしまって間違った情報を発信してしまわないようには心がけています。」

「僕がグリーンズで取材する人って、ビーパルもそうだし、ソトコトもそうなんですけど、前向きな人が多いんですよね。


取材すればするほど、すごい人ってたくさんいるなって。


そういう方に会ってると前向きな力をたくさんもらうし、世の中はすでに明るいぞって思うんですよね。


だから、極端な話、世の中は、無理にこうしなきゃとかする必要ないし、変える必要なんてないんじゃないかなとも思っていて。


実は既に世の中はすごく明るいなと思ってるし、日本もすごく明るいなって感じます。


上の世代のおかげも大きいですね。


もちろん事実は事実として伝えつつ、それぞれの課題に真剣に取り組むことは必要です。


僕自身、たくさんの人に会って話を聞いて価値観が作られていますし、どんな情報に触れるかで道筋は変わってきます。


そういうことを意識して伝えていくのが多分僕の仕事なんだって思っています」


 

いすみの大自然の中というシチュエーションのせいなのか、磯木さんの穏やかな雰囲気のおかげか、一生懸命がんばるのも大事だけど、自然の流れに身をゆだねるというか、“余裕”とか“ゆとり”とか“間”の大切さを改めて感じさせられたインタビューでした。

磯木さんの言葉に胸動かされた方、ライター業や地方への移住へ関心のある方は、是非一度、ライターインレジデンスに応募してみてはいかがでしょう?今後の開催に関しては磯木さんのサイト『SLOW MODERN FOOD』をチェックしてみてください。

Profile

食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター

磯木淳寛さん

食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター

磯木淳寛さん

北海道出身。食と地域を企画と文章で編み、耕す人。オーガニック食品会社オイシックスのライター、Web制作を経てフリーランスに。農家取材を通じて出会った“足るを知る”の哲学に感銘を受け、パーマカルチャーや、自然と調和する仕事と暮らしに興味を持つ。2013年、自分自身が現場に近づき当事者となることが活動を深めると思い至り、都心から千葉県いすみ市へ。

自然と共生する価値感と農を中心とした地域暮らしの可能性をテーマに取材・執筆・企画などを行うかたわら、2014年までマクロビオティックのカフェ&宿ブラウンズフィールドで経営マネージメントとブランディングディレクションに携わる。2015年から、感性と品性とスキルのある未来の書き手を育み、「善いことば」を増やすことで、世の中をちょっとだけやわらかくするためのライターインレジデンス『“地方で書いて暮らす”を学ぶ4日間』を企画、主宰。

ATSUHIRO ISOKI's
FAVORITE TIPS

BOOK

『ローマ法王に米を食べさせた男』
高野 誠鮮著

ドラマ化されました。もともとテレビマンだった人が、30歳を前に石川県羽咋市の地元に帰って農業を盛り上げていく話。米をブランディングするためにローマ法王に米を送って食べてもらって、“ローマ法王が食べた米”と謳ってすごく売れたという。やればなんでもできるって勇気をもらえます。

BOOK

『ポスターを盗んでください+3』
原研哉

デザイナーの原さんの本は面白いですね。本読むのが遅いこともあって、ずっと読んでるんですよ。この本、何度読んでることか(笑)。内容も面白いんですけど、言葉の表現を学ぶっていうか文章がとても美しいですね。

BOOK

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』
渡邉格

近隣の自然栽培原料を仕入れて作ったパンが売れることで地域そのものが潤い、環境も守られていくパン屋の取り組みについて書かれています。ちゃんと経済を回すことについてもあらためて考えさせられ、お金の利用の仕方も学べる本。