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Interview

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何十年先までを見据えて。 日本の里山を世界中の子ども達が集う学び舎に

『MOIUMIUS LUSAIL』 フィールドディレクター
油井元太郎さん

2015年7月に宮城県石巻市雄勝(おがつ)にオープンした体験型宿泊施設『MOIUMIUS LUSAIL』は、 『雄勝学校再生プロジェクト』により、築90年の歴史を持ちながら廃校となった旧桑浜小学校が新しい時代の学び舎としてリノベーションされ生まれ変わったものです。
このプロジェクトには2013年から、延べ5千人ものサポーターが参加。
今回、お話を伺った『MOIUMIUS LUSAIL』フィールドディレクター の油井元太郎さんはプロジェクト立ち上げ当時から活動を牽引してきた第一人者。
そんな油井さんに、『MOIUMIUS LUSAIL』にかける思いをお聞きしてきました。

雄勝という場所に選ばれた、ご縁

「震災直後、東北に炊き出しに入った仙台出身の友人を助ける為に東京から毎週末、こちらにボランティアで炊き出しに来てたんですね。

それから雄勝中学校の給食を提供させていただくことになって。

その後、石巻市内の仮設住まいの子ども達を雄勝の街に連れて行くための体験プログラムを実施しまして。そこから、廃校になっていた旧桑浜小学校の存在を知りまして。

雄勝の人口は震災前の約4千人から、今4分の1の千人ぐらいになってしまって。実際に未だに、雄勝から車で40分ほど先の町に集団移転している方もいらっしゃるんですね。

じゃあ、この場所で交流する人たちをもっと増やしていこうと『雄勝学校再生プロジェクト』を立ち上げることになりまして。」

↑雄勝湾を見下ろす海と山がつながる自然豊かな高台に建つ 『MOIUMIUS LUSAIL』。

↑『MOIUMIUS LUSAIL』のダイニングルーム。一つのテーブルを皆で囲んで食事をとれる。

↑『MOIUMIUS LUSAIL』のベッドルーム。

ここの活動をスタートさせるまでは、2004年から8年間、キッザニアに立ち上げから携わってきました。

そんな自分の築いてきたバックグラウンドがあったからこそ、ここの価値を感じて、実現性を感じてで、実際にチャレンジしてみようと行動に起こすことができました。

僕らは事業を興そうと廃校を探して歩いてたわけではないし、もともと教育支援するために来ていたわけでもないですし。

変な話どこでも良かったのかも知れません。僕らが雄勝を選んだっていうよりも、雄勝が僕らを選んだ。本当に運命というかご縁です。」

里山の豊かな自然環境や人の暮らしは
日本の誇る財産

もともと教育に関心があったんですか?

「キッザニアをやってみて思ったのが、都市部の子どもこそ、こういう(MOIUMIUS LUSAIL での体験のような)原体験みたいなものが特に必要ですし、欠落していると思います。

知識偏重で勉強勉強っていう方にシフトし過ぎたためにちょっと大切なものを見失っちゃってるんじゃないかと。

様々な子ども達をとりまく問題、社会環境を目の当たりにして次の世代を担う子ども達のためにって気持ちが強くなったってのはありますね。

今、避けては通れない社会課題だと思います。

これからの日本が心配だなと思っていて、突き詰めていくと教育が大切って事に行きつかざるを得ない。学校に行かない人なんていないですし。子どもに学ばせたくない親なんていないでしょうし。

海外の経験が長かったので、自分の視点から、海外と対比して思う事もいろいろありまして。

これは日本に限らないことかも知れないけど、都市部があまりにも一極集中してしまったので、地方に目が向いていないですよね。逆に地方は人がいなくなってしまって本来持っていた良さを見失いがち。

僕らからするとこんなに豊かな環境があるのに。都市部と地方の融合が足りないと思います。

海外に行って視野を広げるってのも大事ですけど、もっと国内を広く見る体験ってことこそが大事なんじゃないでしょうか。

個人的には、こういう里山の自然環境だったり、そこにある豊かな人の暮らしだったりっというところが日本の誇る財産の一つだと思っているので。

そういったものが子ども達の成長のために活用できるんではないかとキッザニアを始めた頃から感じていました。」

↑施設の庭の田んぼは、生活排水がリサイクルされ使われています。子ども達に自分達が食べる農作物の成長を身近に感じてもらいます。

「もっと大きな視点で地球環境を考えると、日本もコンビニで水を買うようになってしまったけど、隣の中国では普通にコンビニで酸素缶が買えると聞きます。

そういうことを聞いてると、これから何十年後、状況は悪化するだろうし、温暖化で食料もどんどんなくなっていくだろうし。

これからの子ども達に、今、私達が出来るのは、自然の素晴らしさとか、いかに自然の恵みをいただいているかとか、逆に返すことでより豊かにする ことができるということを伝えることなのではないかと。

子ども達がどう活かしていくはわからないですけど、生きていく上で絶対必要な感覚なのではないかと思うんですようね。

僕は、どちらかというと仕組みを作っていきたい。うちのスタッフみたいに毎日一生懸命、子ども達に何か提供するために働くってのもありだと思いますし。

僕は仕組みや場を作って、スタッフを雇って、少しでも多くの子ども達により良い体験をさせる枠組みを作るってことが得意だし、出来ることだと思うんです。

そうすることの方が数十年後、子ども達が日本を背負って立つ時に効果を発揮すると思うので。

仕組みを起したほうが最終的にはインパクトがあるはずってことが、ここ十年ぐらいの仕事で感じることなのですよね。

キッザニアでは何十万人って子ども達を対象にしてきている反面、体験時間は一つの仕事につき30分くらいですから、広く浅く社会を知るきっかけを子ども達に作りました。

だとしたら、こっちは、規模は小さいけれど1週間とか最低でも2日間とか濃い内容を体験してもらうことで、将来によりインパクトを持ってつながっていくのではないでしょうか?」

循環する暮らし、
多様性ある出会い、
土地と人の物語

実際、体験プログラムはどんな内容なんですか?

「この動画を見てください。2015年の8月の夏休み第1週目に参加した女子中学生が作った動画です。


撮影して編集してまとめるのが好きな子で、そもそもここに来る目的が、プログラムに参加するのではなく、プログラムを体験している子ども達の様子を記録したいと。家の仕事の関係でフランスに住んでいるんですけど。どこに旅行しても常に動画を撮影しているらしくて。

この動画のように、田んぼや畑での農作業や海での海産物の収獲、そして自分たちで手に入れた食材を使って自分達で料理して食べて。

地元の一次産業の第一線で活躍される方々や県外や海外から訪れる多彩な人材に講師として携わっていただき、大自然に囲まれた雄勝ならではのプログラムを体験できます。

(動画に撮影されている)この日は海の体験をする日なので漁船に乗せてもらってホタテの収獲です。

この子はフランスから来てるんでホタテよりホタテのまわりにくっついてるムール貝のほうに興奮しちゃって。

漁師さんにとってはムール貝は雑魚なんですけど(笑)。

大量にもらったんでスープにしていました。網にかかった魚とかもわけてもらえますので。それを皆でさばいて刺身で食べたり。

残ったものは豚にあげて堆肥にするとか、採った木で火をおこして料理をするとか。家具を作るとか。

ひとつひとつに循環の暮らしを感じてもらうのが非常に大きなテーマだったりするんですけれど。

それを支えている参加者だったり、スタッフが多様な人だったりする。」

↑東日本大震災による大きな被害を受けた宮城県名取市の養豚場で飼われていた『蔵王ありが豚』というブランド豚。子ども達の体験プログラムの一環として何匹かを引き取り育てている。

↑かまどの火も子ども達が自分達でおこします。

↑名札は採ってきた木を使った、お手製のもの。

「スタッフも正規スタッフの7人と共に、ボランティアで参加してくれるスタッフも多いので。

外務省がやっているJETという外国から英語教師を招聘してくるプログラムの子達が夏休みとかには毎週2人から3人いてもらうようにしていまして。

この動画には出てこないんですけど雄勝ウォークといって震災で一番被害がひどかった町の中心部を歩いて、震災前と後で何が変わったのか、今ここにる方の暮らしはどうなったのかを、地元の語り部の方とか、うちの雄勝町出身のスタッフとかに話をしてもらう機会をもったり。

そういう自然の循環と多様な環境。それを震災を経験した雄勝という場所で体験する。

この3つを大事にしてプログラムを設計して運営しています。

きっと子ども達の成長のきっかけになるというのが我々の思いで。」

地元の人達も一緒に盛り上がれる取り組み

地域の人達の反応はいかがですか?

「今日も観客として、ここの卒業生が7,8人いらしてましたけど。

自分の通った学校が廃校になるというのは、かなり悲しいことじゃないですか。

でもそれが再生されるってことは、とても喜ばしいポジティブな話なので。

卒業生の方はすごく喜ばれています。

特に震災っていう衝撃的な出来事があって、これだけ人がいなくなってしまって、このままじゃって思われてる方が地元にはたくさんいらしゃって。

そういう方にとって、今日みたいに突然アメリカからあんなに元気と感動をもらえる子達が来て(この日は、『ザ・ヤングアメリカンズ』の日本公演の一環として『MOIUMIUS LUSAIL』でライブが行われた)、この場をにぎやかに盛り上げてくれるのは、とてもうれしいことです。」

↑2015年9月22日の体験プログラムには、特別に『ザ・ヤングアメリカンズ』のライブに出演するワークショップも開催されました。子ども達の感動もひとしお。満面の笑顔で『ザ・ヤングアメリカンズ』の面々と共にパフォーマンスを披露しました。

「もしくは毎日のように子ども達が来て、にぎやかな声がするってだけでも本当に幸せだって言ってくださる方がたくさんいらっしゃる。

そういう意味では学校の魅力ってまだまだあるし、卒業生の絆ってありますし。(2015年の)10月の4日はここで卒業生の大運動会をやるんですね。

2百人ぐらい集まって、上は90歳ぐらいの方から、下は20代まで。真ん中の世代は子ども連れでいらっしゃったり、上の世代の方々はお孫さんを連れて。

運動会という名の同窓会ですよね。

若い方を中心に運動するんですけど、食べ物もお出しする予定で。“お久しぶりですね。”、“元気だったんですね”というような交流が生まれるでしょう。

以前ならば外部の人間と運動会をすることも、今日みたいに外国人のパフォーマンスを見に来ることもなかったでしょうし。

現実的な話、ここはビジネスでやっているので、滞在するご家族から宿泊費、参加プログラム費をいただいて収益を得ているわけですが、それで地域住民の雇用を生み出している。

ここで使う野菜とか魚介類は石巻産なので、地元の農家さん、漁師さんにとっても売り上げにつながる。顕著に経済効果も生まれています。」

何十年も続けて
世界から注目される場所に

「1923年から2002年 に廃校になるまで、この学校が運営されてきたのと同じぐらいの歴史を築かないと意味がないと思っていまして。たかだか5年、10年やったところで本当に雄勝の町が変わるとは到底思えないですし。

これはきっかけにしか過ぎず、これが何十年続けることで今は考えられないつながりとか効果とかが絶対に生まれると思いますので、まずそこを目標にしています。

その中で僕が大事と思うのは、世界とのつながりです。地元の方とここを盛り上げて、地元が元気になって、全国からたくさんの子ども達が訪れるのは素晴らしいんですけど、それだけじゃもったいない気がして。

日本ほど豊かな国って本当にないですし。

海外からこれだけ評価されている国ってあんまりないですし。

例えば、ビザがいらない国の代表例が日本。これは日本が信頼されているから。

経済効果のおかげもあって、アニメ、電化製品、様々な分野で日本が評価されているのは確実なんですよ。

ですから、声をあげれば来てくれる人は絶対いるはずで。日本がもっともっと門を開けば、世界から人が集まる可能性が十分にあります。

ここは震災があった場所として気になっている人は世界中にたくさんいるはずですし。

様々な要素を積み重ねていって、なおかつ受け入れる体制を整えれば、もっともっとインバウンドとして海外から人を呼べるはずです。

最終的にはこれからアジアとか中東とかアフリカとかいろんな発展途上国に、東京のような街がどんどん出来ていく中で、また地球の環境が悪化していく中で、逆に自然主義がどんどん復活していって。

自然の中で子ども達を過ごさせたい親御さんとか、自然の中で過ごしたいって子ども達が増えていくはずですよね。

東京じゃなくて雄勝に行こうよってことが実現できれば、雄勝はもちろんですけど日本の田舎はもっと豊かになるはずですし。

それこそ日本の過疎地域、田舎の里山といわれる所のチャンスです。」

↑伝統的な雄勝硯を使ったスレート屋根が特徴的な美しい佇まいの木造校舎 。

↑『MOIUMIUS LUSAIL』に保存されている桑浜小学校最後の卒業生のメッセージが書かれた黒板。

「ホリデーは日本の田舎に行こうというのが世界中の子どもの概念になったら。

日本全体の評価ってもっと高まるでしょうし。それは確実に日本のブランドになりますしね。新しい日本の教育の方法にもなります。

そうしていくことが日本を変えていくきっかけになる。

それが日本の子ども達にとってもっと明るい未来になるんじゃないかなって。

そういう意味でここが何十年もあり続け、世界中から注目を集めることが重要だと思っています。

先日、文科省の廃校担当の方がいらっしゃって、この20年で6,834校 が廃校になっているとのことでした。

そこにある資源を活用して、『MOIUMIUS LUSAIL』のような場所として廃校が活かされるのならば、なにかお手伝いをする可能性はありますけど、現状は、ここをスタートしたばかりなので運営を軌道にのせなければいけないですし、いつまでも僕がこうして表に出ていてもしょうがないですから。

若い人たちが自分達で経営していけるようにするってのが最優先ですね。

自分だけでは何もできない。お金があっても出来ないこともあります。まずは人がいなければ。

特にこの地域は、もともと人が少なくなっていた町。残念ながら、ここは、東北の中でも南三陸とか女川とか気仙沼のようにブランド力があって人が集まる場所ではありませんので。

そんな雄勝に集まってもらったり、来れなくても東京からプロジェクトをサポートしてもらったりして、人と人のつながりがどれだけ大切かということを、これまでの人生で一番感じたというか。

これからも大切にしていきたいです。」

Profile

『MOIUMIUS LUSAIL』 フィールドディレクター

油井元太郎さん

『MOIUMIUS LUSAIL』 フィールドディレクター

油井元太郎さん

1975年東京生まれ。幼少からアメリカで生活。ペンシルバニア州レバノンバレー大学音楽学部 卒業後、ニューヨークで音楽の仕事や日本テレビ関係の業務に。退社後2004年9月にキッザニアを日本に導入する株式会社キッズシティージャパンの設立に関わる。2006年10月キッザニア東京を開業。ライフワークとしてこどもの教育や食文化発展、生産者支援、自然環境保全などに取り組む。