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Interview

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豊かな生活は自ら造り出す
金融マンからワイン醸造栽培家への
180度の大転身【前編】

『グリーンソングス』ワイン栽培醸造家 
小山浩平さん

昨今、国際的なコンペティションで上位に選出されるなど、その美味しさが世界的に広く認められ、評価が高まっているニュージーランドワイン。
生産地としてのポテンシャルも高く、世界各国から意欲的な醸造家がニュージーランドに集まっているのだそうです。
今回、お話を伺った日本人ワイン栽培醸造家の小山浩平さんもそんな一人。
浩平さんは2014年にニュージーランド南島の都市ネルソン近郊でワイン造りをスタート。澄んだ爽やかな空気と水の美しさが反映された香り豊かなプレミアムワインとして注目を集め人気を博しています。
実は、それまで金融マンとして活躍されていた浩平さん。世界経済をリードする金融業界から全く真逆とも言える大自然に囲まれたニュージーランドでのワイン栽培醸造業へと大転身をされた方なのです。
また、浩平さんのワイナリーの畑は、電気は太陽光パネル、生活用水は雨水を利用するなど自然と共存しながら持続可能な暮らしの実現を目指している『アタマイ・ビレッジ』というパーマカルチャー・ビレッジの隣で運営されていて、循環可能性が高く、体に優しいワイン造りというコンセプトが貫かれているのだそうです。
ワインのスペシャルな美味しさもさることながら、浩平さんの経歴、ワイナリーの所在地、取り組み方、ワイン造りへの思いもユニークそのもの。
しかし、一見、特別に思われる浩平さんの暮らし方、働き方の選択には、私たちの“これからの豊かな暮らし”への普遍的な示唆に溢れているようです。
浩平さんのワイナリー『グリーンソングス』(2017年に旧『アタマイビレッジワインズ』から会社名に統一されました)を訪れ、奥様の邦子さんと一緒にニュージーランドでの“豊かな”生活についてお話を伺いました。

世界経済をリードする
金融業から
手触りを感じる生業への転身

なぜ金融機関を辞めて、ニュージーランドでワイン醸造に携わる生活を選ばれたんですか?


 


小山浩平さん(以下、Ko):「何か“手触りのある事”を生業にしたいというのがずっとあって。

あと、僕の血筋というか、母方の本家が山形で日本酒の酒蔵なんです。

創業が1593年、関ヶ原の戦いのちょっと前なんです。今、おじさんが26代目の当主で、うちはその弟の家系で杜氏をずっとやっていたんです。

だから小さい頃から酒造りっていうのが身近にあって。

今に至る直接のきっかけじゃないですけど。」

↑浩平さんのヴィンヤード(ブドウ畑)『グリーンソングス』がある『アタマイ・ヴィレッジ』。

↑撮影/Oliver Weber氏

↑ワイナリーからの眺め。ニュージーランドの大自然が広がります。(浩平さんが撮影)

Ko:「それから住環境的に、この先ずっと東京に住むっていうイメージが持てなくなって。

農作物や植物を育てるのに興味があって近郊の農家の手伝いをしたりしていたんだけど。もう一歩進んで自分たちでやりたいという思いもふつふつとあって。

大学時代から15年ぐらいずっと東京暮らしで家を買おうとしてたくらい全く不満はなかったのですが。

311の震災の影響も少なからずありますね。

僕は地震の時は東京の大手町のビルの23階にいて。生きていることの大切さを節に身にしみて感じて。

一回の人生ですし。

震災が背中を押したところはありますね。

僕は青森県、うちの奥さんは三重出身で、二人とも地方出身だから国内の田舎でもよかったんですけど、歳をとってからでも戻れるし。海外で暮らしたこともあり言葉もそれほど問題がなったので、それじゃあ海外へ行こうかということになりまして。

いざ海外に住むとなるとそれなりのエネルギーが必要なので若い今のうちに動かないとと思いました。」




ワインを造ろうと思ったきっかけは?




Ko:「イギリスに赴任した時なんですが。

イギリスは、歴史的に見ても世界のワインの集積地で。


例えば、フランスのボルドーは、元々、イギリスの植民地だったので今でも良いボルドーワインは、まずロンドンで値付けされるんですね。


仕事上よく良いワインを飲む機会に恵まれたこともあり、ロンドンでワインっていうものがすごく好きになりまして、そこでニュージーランドワインにも出会ったんです。

地球の裏側でこんなに美味しいワインを作ってる所があるんだと知って、“造る”方に関心が変わっていきました。」


 


浩平さん&邦子さん


↑2000年、金融マン時代の浩平さんと邦子さん。N.Y.にて。(浩平さんの友人が撮影。)


 


Ko:「それから、事業として考えた時に、ものをつくるのはすごく初期投資がかかるじゃないですか。

工場や、そのための土地とか…、だから、ものづくりって結局大規模になるわけです。

例えばビールは大規模生産ですよね

ビール一本、どんなに高くても1000円ぐらい。

どんなに素晴らしいクラフトビールだって5000円は出さないですよね。

それに比べてワインは数百円から百万クラスまで値段にすごく差がある。

一つの商品でこれだけ値段に差があるということは、小規模生産で工夫次第では、経営が成り立つ余地がある。

それも僕がワインをやる積極的な理由の一つで。

この値段にするのであれば、どういった顧客層を狙えばいいかとか、どれくらいの本数を作ればいいかとか、造り方だけでなく経営についても色々工夫が出来る余地がある産業でもありますし。

小さいサイズでも自分たちの生活が成り立ち、しかも環境負荷が少なく出来ることと言えばワインを造ることだなと思って。

しかも、ワインは日本でいう6次化産業の最たるもの。

栽培し育てたぶどうを加工してワインにして一般の方やレストランに販売する。その流れをある意味全て一人でできる。

ワインが好きとか良い出会いがあったとかそういうパッション的な部分と同時に、ワイン造りをビジネスとしてドライに捉えてみても取り組む価値を感じたところもあるわけです。」


小山浩平さん

ワイナリーにて温度計を確認しながら、ワインをテイスティング中。(浩平さんの友人が撮影。)


 


ニュージーランドを選ばれた理由は?




Ko:「ニュージーランドは“南半球のブルゴーニュ”と呼ばれるくらいワイン作りに適した土地なんです。


ブルゴーニュで作られているピノノワールやシャルドネといった品種があるんですけれど、それをこれだけ上手に美味しく育てられるのはブルゴーニュ以外ではニュージーランドくらいではないかと言われるほどなんです。

ヨーロッパでは土地を持てないけど、ここなら豊かな土地でワイン造りに携わることができる。

それに、ニュージーランドは移民に対して寛容なので、ドイツやスイスやアメリカなど世界中からワインの造り手がやってくるんです。


みんな世界中を旅してワイン造りをあちこちで経験して、その知識を持ってやってくるんですよ。だから、こんな南半球の果てにありながら世界中のワイン情報が逐一入ってくるんです。

人口が横浜や名古屋と同じぐらいの400万人ほどで国内消費だけでは成り立たたず輸出で産業が回ってる国なので、ワインも生産される9割が輸出用なんです。

基本的に海外で通用する高品質のものしか作らないという基準があってマーケットは世界に広がっているわけです。

そういった経緯で、ニュージーランドは、この30年でワイン産業が発展した場所なんですよ。」


 


なるほど。ワイン造りに携わりたい人にとって、ニュージーランドはうってつけの場所ですね。グリーンソングス 


↑ピノ・グリという種類のブドウ。やや甘めでコクのあるワインになります。(浩平さんが撮影。)


グリーンソングス


↑ソーヴィニヨン・ブラン。NZらしい香り漂うワインになります。(浩平さんが撮影。)


 


Ko:「実は、ここに来るまで南半球に行ったことがなかったんですが、ニュージーランドにはクリーンでグリーンなイメージがあったし、農業とかものづくりに関わるには最適な場所だと思っていて。色々調べていたらリンカーン大学(南半球最古の農業学校であり、農学、畜産学、園芸学の世界的な研究機関。浩平さんは主席で卒業されていらっしゃいます)という国立で唯一ワインの醸造の単位が取れる学科ある大学を見つけて。

ぶどう産業ワイン醸造の学科に入る事ができたんです。」




国立大学にワイン産業に特化した学科まであるんですね!




Ko:「それにニュージーランドは起業しやすい国、世界1位ですよね。あと個人事業主の数が人口比で世界一大きいみたいですよ。

みんな何かしらスモールビジネスを持ってる人が多いと思います。

会社に勤めていても兼業禁止規定がないから、例えばワイナリーに勤めながら自分のワインを作っても良いわけですよ。

どっちかっていうと、皆2つ3つ仕事を持ってるのが当たり前で、昼は警察官だけど自分の家でワインを作ってますとか農業をやりながら学校の先生とか全く問題ないわけです。

そういう意味で生活のリスクを分散できる。

事業はすごくしやすいし会社も作りやすいですしね。

特にワインは国内で四番目の大きい産業なので国をあげてのサポート体制がすごいしっかりしてるんです。」


 


 

身近な大事な人を大切にしたい
環境負荷の少ない
ワイン造りへのこだわり

浩平さんのワイン造りのこだわりって何ですか?




Ko:「ワイン造りって農業なわけですけど。 

作物を大量に採取するために肥料や農薬を撒き環境に大きな負荷をかけているのが現代の農業のメジャーなスタイルです。

同じような手法でぶどうを育てるんだったら大規模にやってる人はたくさんいるので敢えて僕がやる必要はないと思っていて。

僕は、なるべく環境負荷が少なく、なるべく人工的な物は使わず…、例えば羊で雑草を刈るとか農薬を使わずに牛乳を撒くとかをやってますね。」




環境を配慮する意識は昔から高かったんですか?




Ko:「東京でいわゆる便利で都会的な暮らしをしてたわけですけど、子どもができてから考え方が変わりましたよね。

今の自分たちのというより、次の世代にもっといい環境を残してあげたい。

現代の暮らし方って持続可能じゃないなって。それを次の世代にまで引き継ぐのはどうなんだろうと。

大量生産大量消費で安いものを散々使ってゴミを出している状況から少しづつ変えていきたいと思います。

政治的な意図を持ってとか、大きな話というよりは、ただ身近に感じる大事な人とか大事なものとかを大切にしたいという思いですね。」

↑浩平さんが手掛けた香り豊かな豊潤な味わいのワインたち。

とびっきりの美味しいのはもちろん、環境負荷の低く循環可能性が高い製法で造られた身体に優しいワインでもあります。

環境負荷の少ないワイン造りということですね。




Ko:「あと、このボトルもそうなんですけど、僕は一番軽いリサイクルボトルにしてるんですよ。

例えば、一般的に出回っている750mlのワイン。液体だから750gで瓶の重さが加わって約1.5kgくらいになるわけですよ。

ということは、重くすればするほど輸送に化石燃料が浪費されるんですよね。

かつワインショップの店員さんや宅配員さんは重ければ重いほど腰を悪くするわけですよ(笑)。環境にも体にも負担がかかる(笑)。

どうしてワインボトルが重いかというと重い方が高級感があるから。

1万円するワインのボトルはやっぱり重厚感があるよねって。

下手すると2kgくらいあるものもあるんですよ。

でも液体の重さはみんな一緒なわけだから。

僕のなんて全部込みで1.1kgなんです。

“パーマカルチャー・ビレッジで造られているワインって軽いのかしら?”ってボトルの重さを測り比べた人がいて、そうしたら僕のが一番軽くて。業界最軽量。

言ってることとやってることが一緒だって(笑)。

そういう意味でも、造り手、流通、売る人、飲む人みんな含めて負担なく楽しめるっていうようなものを作りたいですね。」

オルタナティブで
ダイバーシティな暮らしが
あたりまえ

ニュージーランドの生活は、実際に暮らしてみていかがですか?




小山邦子さん(以下、Ku):「私達が住むモツエカの辺りは、いわゆるオルタナティブな暮らしを志向する人たちが比較的に多いと思います。」


Ko:「このビレッジもそうです。ワイナリーで草刈りのために羊を貸してもらったり、収穫の時はみんな手伝いに来てくれたり。」

↑収穫ボランティアの皆さん。全て手摘みでブドウを収穫。

Ko:「みんな特別なことをしているというよりも、普通に生活を楽しみながら環境負荷がないように暮らしてるって感じですかね。

従来のエコビレッジというと電気もガスもないという我慢を強いられる修行みたいな生活のイメージがあるじゃないですか?

この辺りの人たちは、生活スタイルを切り詰めて無理に辛い思いしてエコな生活をするという感じがなくて。

要は電化製品は所有するけど自分の生活に必要な電気の量を知り、それを電力会社から買うのではなく自家発電で自分たちで作り出す。そのためには太陽光パネルがどれくらい必要かとか考えたり。

コンポストトイレで出たメタンガスで火をおこしたり、屋根にパイプを通して太陽光で温めてお湯にしたり。どうすればストレスなく暮らせるかって仕組みを作るのがここに暮らしてる人たちは上手ですよね。

ないものを我慢するっていうよりも、楽しみながら出来るところを自分たちで賄っている。」


Ku:「ヒッチハイクしてる人もいるし。車に乗る回数を減らそうとしてる人も多い。

特にカーシェアリングって仕組みじゃなくて、メールで“どこどこ行きたいんだけど車乗っけてくれる人いない?”って感じで誰かが車に乗る時に便乗させてもらうとか。

自転車道路もちゃんと出来ていて、自転車が市民権を得てるから。」


Ko:「あと、いろんな国の人がいます。

僕たちが住んでいるMotueka(モツエカ)は人口5千人の街なんですよ。日本で5千人って言ったら過疎地ですよね。でも5千人のうち15パーセントが海外生まれなんですって。

かつ夏は海外から観光客がやって来て人口が1万人くらいに膨れ上がるんですよ。

だから5千人の街なのに全然寂れた感じがしないんですよ。メインストリートのカフェや地元の店があって人通りがあるんですよね。

そういう意味では外とつながってる。隣にいるのがドイツ人だったり、アメリカ人だったりするのは、日本の田舎とは違う点ですね。

海外の良さもわかった上で、ここの良さもわかってる人たちがいる。だから外に開いた田舎って感じですかね。

その割に、1つ1つの街にちゃんと個性もあるし。

生活コストが低いのも魅力ですね。

基本的に生活の固定費が非常に低いんですよね。

日本だと仕事してなくても社会保険料や国民年金や支出が多いじゃないですか。

ここでは、例え収入が少なくても出ていくお金も少ないので。

極端言えば、働かなくても住むところさえあれば生活できますからね。」


 


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浩平さんの美味しいワインのバックグラウンドにはニュージーランドの地で育まれた先進的で豊かな文化や暮らし方があるようです。

浩平さんのインタビューは、【後編】へと続きます。

Profile

『グリーンソングス』ワイン栽培醸造家 

小山浩平さん

『グリーンソングス』ワイン栽培醸造家 

小山浩平さん

1976年生まれ、青森県出身。


東京大学を卒業後、東京、ロンドンを拠点に金融業界で活躍。


2011年、ワインの造り手になることを目指しニュージーランドに渡る。南半球最古の農業学校であり世界的研究機関でもあるLincoln大学のブドウ栽培・ワイン醸造学科に入学、日本人初の首席で卒業。その後Bell Hill Vineyard (NZ)Greystone/Muddy Water (NZ)DuMOL (カリフォルニア)等にて、ブドウ栽培・ワイン醸造業務を経験。


2014年にニュージーランド南島、ネルソンの郊外にあるパーマカルチャー・ビレッジAtamai Villageにてワイナリーをスタート。2017年に、ワイナリー名を『アタマイビレッジワインズ』から会社名『グリーンソングス』に統一。