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Interview

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世界に響く音を創る!お寺は理想の音作り空間

monk beat  レコーディングエンジニア
山口 泰さん

国内では、CHARA、Crystal Kay、m-flo、UA…、海外では、ブリトニー・スピアーズや*NSYNCといった超一流アーティストの作品を手がけてきたレコーディングエンジニアの山口泰さん。レコーディングエンジニアなんていうと、どうしても都会的なイメージを持ってしまいがちですが、現在、千葉の南房総の田んぼや畑に囲まれた薬王寺にスタジオをかまえ音作りに励んでいる山口さん。時代の先をキャッチするアーティスト達に支持されている彼に、これからの時代に求められる音作りについて伺ってきました。

これからの時代に求められる
音への気づき

「レコーディングエンジニアって一言で言うと、音楽を人に伝える仕事です。
分かりやすく言えば、いろんなミュージシャンの音をひとつにまとめあげる。
ボーカリストが歌った思いとか、ギターリストが演奏に込めた思いとか、発信者、メッセンジャー側の思いが音に詰まっているので、それをまとめて、プラスにする。音楽って、1+1が3とか4とか5になる。ドラムだけドンッて叩いていてもただのビートだけど、そこにベースが入ると温度が加わり、そこにギターとかピアノとかコード感が響くとカラフルに広がり、歌が入ると魂が入るような。ひとつにまとまることによってアートになるし、初めて人に感動をお伝えできる。それで人の役に立つじゃないですか。
今までは、かっこいいとか、流行の最先端とかを追い求めていて、それが人の生活を潤してきたけど、本当に人を豊かにするような、もっと“心に響く”音っていうのが求められる時代になってきてる。だから音をまとめたり、録音するときも、そういう思いで、できるだけたくさんの人の心に届くようにって意識して音作りに努めるようになりました」

そんな山口さんの音作りの方向性、価値観を大きく変える出来事。それが2001年9月11日に起こった世界同時多発テロ事件。

「'01年9月11日は、新しいスタジオの契約の日だったんですよ。新しいスポンサーが決まって、更なるステップアップに向け意気揚々のはずだったのですが…。’96年からN.Y.に拠点を移して活動していたんですが、当時、活動していたスタジオが正に事件現場の近所で。崩れるビルを目の当たりにして、殺伐とした状況のなか、仕事仲間を迎えに行って、避難して。すごいショックでした。それまで、日本でメジャーなアーティストの方々と仕事をして、NYでさらにトップを目指し、アーティストとして上り詰めたい、頂点をめざしたいと思ってきたけど。自分の信じていたものが崩れ去るのを感じました。911以降、N.Y.の街は、手をつないで歩いてた恋人同士は肩を抱きあって歩くようになったし、肩を寄せ合って歩いてた老夫婦はお互いを抱き合うようにして歩くようになった。誰もが人とのつながりを大切にするようになりました。音楽は、流行の最先端をいくかっこいいもの、きらびやかで脚光を浴びるものとかって思ってたんだけど、もっと人と人をつなぐとか、心の豊かさとか、安心感とか、愛とか、そいいうものを伝えていく、人と人をつないでいくのが音楽の役割なんじゃないかと思うようになりました。」

(山口 泰さんのインタビュー動画はコチラ↑)

この場所だからこそ
発信できる音作り

911体験の心の痛手が癒えぬまま、帰国を決意。一時、京都に活動拠点を置く。

「N.Y.滞在時からずっと“ここでやっていく上で自分の強みは何か?”を強く意識させられていました。N.Y.は、いろんな国の人が集まるコスモポリタンな街ですから。そこで、たどり着いたのが伝統的な和な音。千何百年前に始まった我が国の文化とか、そういうものの中にヒントがある気がして。 その中でも特に寺の鐘の音に惹かれて。“ゴ~ン”というのを聞くだけで、“あ~”って心に響くものがある。あれは、やっぱり日本人として世界に響かせたい音の伝え方、音の波形だと思います。奈良や京都のお寺の映像を見てそこから受けるイメージも音作りに生かすようになりました。」

 
 お寺にスタジオをかまえるまでに至る、もうひとつのきっかけが、ハワイでのレコーディング体験。

「アーティストのサンディさんのレコーディングでハワイに同行させていただくことがあって。そのスタジオがすごく開放的だった!庭先では、参加するミュージシャン達が自分のレコーディングの順番を待ちながらワイワイ集まっていて。“次は自分が録音するよ~”みたいなラフな感じで入れ替わり立ち代りスタジオに入ってきて。隣はフラのスタジオで、かわいい子達がフラを踊っている。有機的に人が集まってきて、音を奏でて録音していくという。自然を感じながら心地よい貴重な体験をしました。
その直後に、帰国して東京での仕事があったんですが、道路工事や車の騒音から逃げるように地下の密閉したスタジオに入って…。ハワイのスタジオとはまったく対称的!
それから、最近、レコーディングのやり方も、コンピューターで、より少人数で、インターネットでできるようになってきて。コンピューターで一度できたものを使って、いつでも、どこでも、できちゃう。そうすると、みんなが一緒に集まる機会が少なくなる。
昔のスタジオ(でのレコーディング)って、シークレットな箱に、みんなが集まって、そこで情熱が作品に投下されていたんだけど、そういうのが少なくなった。みんなのスケジュールも合わせやすいし、良い部分も増えたけれど、巷で流行っている音楽、自分が作ってる音楽も含めて、客観的にちょっと魅力的な音じゃないなって思い始めてた。
作品を創りあげていくうえでどうするかっていったときに、人間は自然の一部であると思うことが必要だって感じて。自然は素晴らしい音声空間。鳥の声や自然の音が先生で耳を育ててくれる。自然の中に身をおくと本当に出したい音がわかる。だからアーティストの素がでる。アーティストが出したい、伝えたい音をきちんと大きく羽ばたかせてあげたい。そう考えるとハワイでのレコーディングみたいのがありだなって。」

人を癒す空間
お寺のDNAを音に受け継ぐ

 そして、活動の場所を、生地である千葉の南房総へ移転。今、お世話になっている薬王寺の石川ご住職と出会うことに。

「千葉県の名那、那古寺で、'10年に落慶(お寺の改築が完成した祝い) の大きなイベントがありました。当時、現在お世話になっている石川ご住職のお父様が那古時のご住職を勤められていて。お堂を使った音楽コンサートを担当させていただいたご縁で親しくさせていただくようになりました。そのうち、ご住職が兼務されている薬王寺を仕事場として使ったらどうかというご提案をいただいたんです。一年に4回ほど寺の行事として使用るすることがあるけれど、それ以外は空いてるからと。最高ですよね!江戸時代の建物で、高床式になっていて音がいい。もともとお寺って、来た人に安心を与えるってのが役目。そこで鐘を鳴らして、お経を読んで、木魚を叩いて、お香をあげて、お花を飾ってと、そのすべてが、人に安心を伝えるための設計というか。
音作りも一緒。アーティストさんに、天然の井戸水を沸かしていれたお茶を飲んでもらったり、大自然の気を取り入れた食物を食べてもらったり、お花を飾ったりして、環境作りをして、リラックスしてもらって、満ち満ちた気持ちになってもらって、良い音を世の中に伝えていく。
人間は自然とつながっていると安心するから。
お寺のような空間で音を作ったり磨いていったりするのは、とても理想的。こういうところで作った音を世界に響かせたいと思っていたんです。」

2015年7月4日に那古寺で開催された第四回 『七夕 東日本大震災復興祈願チャリティーコンサート』で演奏する山口さん。(撮影/中村將一氏)

(撮影/中村將一氏)

2015年4月26日に開催された第六回 『極楽なひととき』の模様。

 2013年からは、東京の増上寺で、『極楽なひととき』(2015年9月26日に開催)というイベントも開催するように。
 このイベントは、音とお茶とお寺のマスターがそれぞれの技を駆使し、その名の通り『極楽なひととき』を演出するお茶会。山口さんはレコーディングエンジニアという立場を活かし、レコーディングプロセスを会場のお客さんにも一体となって感じてもらいたいと考えている。そこで、毎回多彩なゲストを迎えて通常の演奏会とはひと味違った音空間を作り上げている。

「録音エンジニア、サウンドエンジニアって立場でお客さんに届けるのは、完成された状態の音じゃないですか。でも、完成する前、BGMができあがったところに歌がぽっと入った瞬間、いきなりエネルギーがぶわっと爆発するんです。そういうときの感動ってとても大きいんです。一般のリスナーに届く感動っていうと最終的な仕上がった状態になるんだけど。物事を創っている段階って感動する部分が出てくるじゃないですか。それがライブだったりすると思うんです。ですから録音された音とは別の音をまとめるプロセスで生じる感動をライブで体験してもらいたくて。それがサウンドエンジニアの  僕が提供できる“極楽!”っていう瞬間だなと思って。

スタジオ同様、イベントの場所をお寺に選んだのも、お寺は、情熱、エネルギーを伝えやすい場所だと思うので。それを効果的に受け取ってもらうために、自然の気をたっぷり含んだ葉からいれたお茶を飲んでいただき、感覚を緩めて、感じやすくなってもらって」

広尾にある烏龍茶専門店『茶通』さんがお茶とお茶菓子をふるまうなか、増上寺のお坊さんが説法を行ったり、ゲストミュージシャンが生演奏をしたり。リラックスした癒しの空間で音が完成されるプロセスの感動を味わうことができる、正に極楽なひととき。今後も開催していきたいイベントのひとつだとか。

DNAを修復する音の波動!?

 音で人の心を豊かにする様々な取り組みの中で山口さんが最近、音を創るうえで心がけていることがあるとか。

「最近の音作りでは、ソルフェジオ周波数を意識しています。
昨年『パーソナルソング』という映画を観たんですが、音楽を認知症やアルツハイマーの治療法のひとつとして取り上げている。認知症やアルツハイマーって、脳のある部分が機能しなくなるんですかね?そんな人に音楽を聞かせるんですよ。その人が青春時代やティーンエイジャーの記憶の中に強烈に入っている曲。好きな人と聞いた曲とか。それは脳全体に記憶として刻み込まれているから、そんな曲を耳にすると、脳が活性化し始めちゃう。自分の子どもが来ても誰だかわからないようなボーッとしてた人が、いきなり生き生きとして歌い始めたりする。そういう効能が音楽にはあるという映画。それを観て、僕たち音楽家にできることがあるなって。音楽以上に音っていう素材を使って人を豊かにすることができるなと。不安だった気持ちを安心させるとか、音楽療法的なこととか。
人が聴こえる可聴域は、低い音から高い音まで20hzから20,000hzぐらいまであって、音楽はそれを埋めている。音と同様、物質は粒子であると同時に波動だと言われてて、ある特定の周波数が体に、何かしらの影響を与えることがあると言われていて、それがソルフェジオ周波数と言われてます。例えば528hzは、DNAを修復させるっていう波動らしい。
生命が生まれるときに、細胞が脈打つのにもひとつの周期があって、人間の記憶の中で、共鳴しやすい周波数ってのがあるらしいです。
その他にも、恐怖感がなくなる周波数とか。そんな周波数を意識してピュッと尖らせるようにして、マスタリングする。響かせ方を突出させる。
最近、リリースするCD 『ピースバイブレーション』」。8月8日に広島で行われたコンサートに参加しているアーティストのコンピレーションアルバムでは、ソルフェジオ周波数をかなりあげています」

美しい平和な日本を
音楽で世界へ

サウンドエンジニアとしてこれから取り組んでいきたいことは?

「ここで創る音を、世界に発信したい。世界のアーティストにこういう所でレコーディングして欲しい。日本みたいに美しい平和な国はないじゃないですか?日本をどれだけ海外に伝えるられるか興味があります。
最近、いろいろありますが、すんなりいかずに、一回、問題が起こり、そこで気付きが生まれ。それが大切なんだと思う。何もなくてスムーズにいっちゃうほうが学びがなくなるし。だから、きっと未来は明るいと思って音作りに取り組んでいます。」

力強く、明るい未来語る、山口さんは11月にパパになるとか。

奥様の佳子さんと一緒に。

「子どもは、こういう所で土に触れて、自然と会話できる力を身につける方が生命力は強くなると思うんですよ、この先。もちろん、それだけじゃなくて、僕の仕事からもカッティングエッ ジみたいなものも吸収してもらいたいし。都会では、学歴とか経済のためのテクノロジーとか技術とかの情報に左右されることを多く感じますが、そうじゃないこれから生きていくうえで身につけるべき重要なテクノロジーとか情報もあるんじゃないですかね。都会と田舎のハイブリッドっていうわけじゃないですけど。
そんな風になってくれたら、いいかなって。」

 以前に増して、凛とした面持ちで語る山口さん。パパになって、また新たな意識で創り出される音に期待が膨らみます。
Profile

monk beat  レコーディングエンジニア

山口 泰さん

monk beat  レコーディングエンジニア

山口 泰さん

San Francisco State Univ. 東京電機大学にて音響工学を学び、Victor Studio よりレコーディング・エンジニアとして独立。その後 New Yorkを拠点に CHARA や Crystal Kay、ブリトニー・スピアーズや *NSYNCなど、多くのメジャー・アーティストの作品に携わる。9.11を期に帰国。
エンジニアに加え『十五夜の宴』の音楽プロデュースや、monk beat を主宰し、ご縁のある素晴らしいミュージシャンたちと希望の音を鳴らす。日本人で最も早く Pro Tools を導入したエンジニアのひとり。“心揺らす太い音!”が信条。monk beatのモンクとは修行僧、ビートは鼓動と解釈し修行僧の鼓動の意味する。 山口氏がリーダーを勤める。

Yasushi Yamaguchi's
FAVORITE TIPS

BOOK

「living on the earth」

アリシア・ベイ=ローレル著

ナチュラルライフを提唱し、世界中で幅広い層から支持を受けている、ミュージシャンであり作家でもあるアリシア・ベイ=ローレルの代表的な名著。公私ともに親しくさせていただいていて。レコーディングを担当することもあります。本書では、料理や裁縫、病気の手当など、素に自然な生き方を、素晴らしいイラストと共に説かれています。これからの時代に必読の書。日本語訳は『地球の上に生きる』。

MUSIC

「Women’s Liberation」

音楽プロデューサー鳥山雄司氏の立ち上げた新レーベル『Super Pow』の第一弾アルバ。Chara、野宮真貴、ケイコ・リーなどの個性派歌姫たちが昭和の名曲を英語カバーしてて、都会的なラテンジャズ・サウンドで聴かせるオムニバス・アルバム。このアルバムではレコーディング、ミックス、マスタリングを担当しました。

MUSIC

バッハの曲

バッハはヒップホップの父だと思っている。ループ感とか、リフレイン感とか、低音の力強さとか、すごい!音楽に目覚めたのもバッハですね。小学校四年生までバスケット少年だったんですが、音楽の時間に初めてバッハを聴いて衝撃を覚え、即日バスケットをやめてブラスバンド部に入りました。このとき音楽の神様に出会ったと今でも記憶しています。特に『G線上のアリア』、 『無伴奏チェロ組曲』がお薦め。